言語の壁

 

お久しぶりです。

インスタのプロフィール欄、鍵垢だから大丈夫と思ってたら、このブログのURLについてはフォロワー外からもアクセスできるみたいでした。

 

仕事関係の、見られちゃいけない様な大多数の人間にブログを読まれてしまい、慌ててアカウントの名前を変更、若干自身が写ってるプロフィール写真も変更、URLの削除といった作業に見舞われたワケですが、なんとか別人のものと誤魔化す事ができました。

というか、もう誤魔化しきれてないけど、否定しまくった結果、相手がもうだるくなって追求するのをやめた。という段階にいます。実質完全勝利と言ったところでしょうか。あとは記憶から薄れて消滅待ちです。

 

少しでも記憶を掘り返す様な輩がいるものなら腹グーパンで真っ先に黙らせてやろうと思っています。パンチ力も上げておきます。

 

自身が撒いた倫理もモラルもなくしたクソの山の様なブログによって、身を滅ぼすところでした。

そしてまた、別アカをブログ用に開設し、さらに鍵垢にすることによって懲りずに無駄な活動を続けているわけです。利益はありません。文を書くのは好きです。

 

 

 

 

さて、この別アカ+鍵垢=誰が書いたブログかわからない。という分厚い仮面を被ったところで、前より一層書いていいこと、ダメなことの規範意識が薄れていっています。ドン引きされる様な中核派的な思想も自由に書くことができます。いっそ国家転覆でも計りましょうか。

 

手始めに書きっぱなしで下書きに保存してた同僚について書きたいと思います。

 

 

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私の同僚にはネパール人の女性がいる。

おおらかで優しい彼女はサビーナ(仮名)という名前だ。サビーナはおそらく40前半くらいで、日本に2年以上住んでいる。2人の小さい子供も、日本で暮らしているらしい。

 

私と同じ職場には外部のアシスタントという立場で別会社から派遣されて来ている。

一緒に仕事をしていて非常に頼れるし、PC作業に長けていると思う。

 

自己紹介の時、I'm Sabina! 今日も寒ィーナ!という持ち前の鉄板ギャグを披露し、爆笑を掻っ攫っていく。冬限定のギャグらしいが、8月に隣でやってるのを見たことがある。全然寒くないし、むしろ今日むっちゃ暑いんですけど、、、、そんな雰囲気も持ち前の明るさで吹き飛ばしていく。ギャグの引き出しは少ないようだ。

 

彼女とはよく話すほうで、いつも会うと「オハヨウゴザイマス」「Good morning イソジマさん」と挨拶してくれる。にっこり笑う彼女に笑顔には優しく包み込むような抱擁力を感じる。

 

一方で、嫌なことや理不尽なことに対してハッキリと表情にだし、「間違ってる」「NO」と言える逞しさも見られる。遠く離れた異国の地で子供2人を一生懸命育てているし、この女性は強いなと思う。1番揉めたくないタイプである。

 

 

日本人は何か断りたい時にやんわり、なるべく相手を傷つけないよう遠回しな表現を用いる。もちろん私もそうだ。相手を不快にさせないよう、限りなく「それなら仕方がない」と思えるような理由を醸成し、精一杯の申し訳なさそうな顔、声、絵文字を利用し伝える。もはや文化と言っても良い。この時に使用する“嘘”はもちろんギルティなのだが、「嘘だと疑われても許される」という前提と「嘘か本当か詮索されない」というプロテクションによって誰もが使いやすくなっている。

そして、伝えられた側もやんわりした断りの雰囲気を素早く感じ取ることができる。

 

「ごめん、今日体調悪くて行けないかも、、🙇‍♂️

めっちゃ行きたかった😭😭」

 

こんな具合である。

 

長くこの文化に浸され続けたワタクシは、たまにあるサビーナの「NO」に面食らうのだ

どストレート直球且つ真顔に面食らって、あたふたする。全て見透かすような瞳から逃れることができない。男前すぎる。

 

 

 

 

 

ある冬の日、サビーナはニコニコしながらラップでグルグルに巻きつけられた小さいタッパーを渡してきた。

 

「This is for you.」

そう言ってデスクにちょこんとそれを置いた。

何か聞いてみると、ネパールの特別な日に食べるデザートらしい。一年に一回、その日しか食べないネパールでは贅沢なデザートだそうだ。わざわざネパールの材料を取り寄せ、現地のままの味で作った。生物だから早めに食べてとのこと。

 

 

私はデザートが好きだ。コンビニに行く時も、スーパーに行く時もよくアイスやスイーツを買って帰る。しかし、海外のお菓子やスイーツに対して、良いイメージがない。チョコもなんだか甘すぎるような気がするし、無駄にカラフルなケーキにも抵抗がある。あとスニッカーズを嬉しそうに食べるヤツと友達になれない。

 

 

アンチスニッカーズの私からしてみれば、サビーナのくれた海外デザートは若干、食べてちゃんと美味しい顔ができるか不安があった。ましてや現地の材料取り寄せたって、、、もうそれネイティブじゃん。ネイティブなデザート。日本で産まれただけであって、soulはネパールにあるよね?

 

 

 

「とっても甘くて美味しいよ」

急かすように囁かれた私は幾重にも巻きつけられたラップのベールを脱がし、パンドラ・ボックスを開封

 

目に入ったのは黒の球体で、ナゾの液体に浸っていた。GANTZ

しかしよくみると黒ではなく、深い赤茶色でボコボコしていた。あーこれアレだわ。ライチだ!

へーライチってネパールの特別な食べ物なんだ〜!

 

「ライチ味ならたくさん食べたことあるけど、フルーツのライチって食べたことないかも!美味しそう!」

 

目の前のGANTZが、果物であることに少し安心した私はそう伝えた。

 

 

 

 

「It's donuts actually 」

 

ドーナツだった。

 

ライチじゃなくて、ドーナツ。オーケー。そしてこの液体は特製シロップ。らしい。

 

 

、、、なるほど。ビショビショのドーナツとはこれが初対面だし、いずれにしても初めての経験だ。そして自信がない。美味そうに食べる自信が。断りたい、、なるべく、食べたくないかも、、そう。出来るだけ傷つけない方法で断りたい。

 

 

性格がハッキリしているサビーナに対して、口が裂けても「GANTZみたいだから要らない」なんて言えない。一生懸命作ってくれたからこそ、それに応えて一生懸命傷優しく断ってあげたい、、。

 

そしてそこに立ちはだかるのは言語という壁。言語というかニュアンス。

この、やんわり、傷つけないように断る。という我が国の美しき文化を彼女は知らない。日本語でも高度なニュアンスを英語で表現し、伝える自信もない。それに加えてこの女性は小細工が通じるような人間でもない。下手を打てば「サイショカラ要ラネエッテ言エヤボケナス」というような直球ストレートの槍がドタマをぶち抜くだろう。

 

同時にそれはコイツを食べる勇気を与えた。

“食べてやるよそれも最高に美味そうによ”

 

 

 

 

サビーナ曰く、レンジでちょっとあたためると美味しいらしい。

私はこのビショビショドーナツを少しでも水分を飛ばし、通常ドーナツに近づけようと、提示された時間+10秒ツマミをまわし、700Wであたため開始。

 

窓越しから見た回転する球体は、ジュワジュワ音を立て、暖かい甘い匂いを発していた。

「ちょっと美味しそうに見えてきたかも」

 

 

 

 

しかし、チーン♪という音とほぼ同時にドーナツが爆発。

 

 

中には空のカップが中央に鎮座し、粉々に飛び散ったドーナツがレンジの壁にめちゃくちゃ張り付いている。

 

 

 

隣で黙って見つめるサビーナを横目に、慌てふためいた私は飛び散ったドーナツのカケラの中でも比較的大きいものを選択し、口へ運んだ。

 

その瞬間には、海外のお菓子がどうとか、スニッカーズがどうとか、苦手意識なんてものはとっくに置き去りにされて、「なんでコイツ言った時間より多くチンしてるの?」「わざと爆発させた?」みたいな疑念を払拭しようと必死だった。

 

推定100万℃の激アツドーナツを口に入れ、想像以上に熱かったのと、どうにか「爆発したとしても美味い」「これまで食べた何よりも美味い」という気持ちが伝わってほしい勢いで、目をガチガチにかっぴらいて「うんんンマあああい!!!」と言って見せた。実際にも美味しかったと思う。

 

 

 

 

 

 

直後、サビーナは一言だけ「汚いから、やめな」と言って布巾を手に取りレンジの清掃を始めた。

 

 

 

、、、アレ?思っていた反応と違う。「また作るから、心配しないで」とか「ahaha!あっためすぎだよ〜もう!」みたいなセリフ、まだですか?

 

もしかして、さっきの「うんんンマあああい!!!」が、“美味い”を強調するあまり

“美味い”に聞こえず、狂気の咆哮となってしまったのか、、?

 

この誤解を解くにも、どこから弁明して良いのか、、、、やばいヤツだと思われてるよね?あぁどうしよう、、、、頭が真っ白になって話しかけることもできなかった。

 

 

  

 

 

常識的で頭の良い人ほど、精神の錯乱したクレイジーを相手にする際の “精神的コスト” や “時間的コスト” を正しく算出することが出来る。それがバカにならないことを、知っている

 

 

キチガイから害を被ったとしても、彼らに償わせるよう働きかけるより無視したり放置したりする方がトータルでの効用が高いという判断になるのだ。

 

程度の差はあれど、“常識的であること” と “個人の得” とがトレードオフの関係になってしまうということは、多いにありえる。良くも悪くも、そこに歪が存在している。

 

 

 

図らずとも悲しきクレイジーモンスターになってしまった私は、後日、サビーナに謝罪をした。この前の私は怖かったらしい。突然大きな声を出したから、びっくりしたとのこと。

 

 

そのタイミングで、彼女から依頼を受けた。

明日急遽子供の病院に行かなければいけなくて、会社に欠勤すると伝えたいが、今日は英語を話せるスタッフがいないらしく、困ってる。だそうだ

 

サビーナは少し日本語が拙い部分がある。当たり前だが、電話越しの早い日本語が聞き取れないらしい。

「もちろん私に任せなさい」

ドーナツの件を償うように喜んで引き受けた。

 

向こうの会社から、1時間後に折り返しがくるみたいで、彼女は子供のお迎えがあるので先に帰宅。

 

 

 

1時間半後、時刻は18時を迎えていた。

待てども待てども電話がかかってこない。

こちらからかけるようと思ったが、しまった番号を聞いていない!

 

そうして待つこと2時間半が経過した。ちなみに定時は16:30だ。おれは当然ブチギレている。時刻は20時に差し掛かろうとしていた。おれの家に帰ってからのゴロゴロニャンニャンタイムが刻々と蝕まれていく。担当者、覚悟しろよ。

 

 

やっとのところで、事務室から外部会社の電話番号を発見した。もっと早く探せばよかったが、関係ねぇ、アイツらが悪い。

 

憤慨の頂点を迎えた私は乱暴に受話器を取り、乱暴に番号を乱打する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま、回線が大変混み合っており…」

 

 

ブッ殺してやると意気込んで電話をかけた矢先これだ。問い合わせ窓口に電話をするとありがちな、あの「ただいま、回線が大変混み合っております。そのままお待ち頂くか、少し時間を置いてからおかけ直し下さい」地獄。トゥーントゥルルルル〜んみたいなBGM、、クソが、、ナメてるのか?

 

あの時、ちょっと追加であっためようと、10秒多くチンしたツケが、3時間の残業となっておれに降りかかっている。決めた。やっぱりブチ殺す。

 

 

 

私は温厚な人間だ。自分でも自負しているし、よく知人からも優しいと言われる。つまり温厚な人間である。むやみに人をぶっ殺したり、やっぱりぶっ殺すのはやめて、ブチ殺す。と思うことは少ない。そんなおれが、ブチギレている。その辺をどうしても担当者に理解させたい。

 

 

 

少し時間をおいてからお掛け直しください?

お掛け直すワケねえだろボケこらあ!このままテメエが出るまでぜってえまってやるからな!

 

 

2分も待たないうちに、女性が出た。

非常にクリアなボイスで、美しい声。これまで声だけで魅力を感じることはなかったが、可愛い良い人だと確信。事の経緯を説明し、非常に丁寧な謝罪があった。

 

 

 

「大変お待たせして申し訳ございません」

 

 

 

 

 

 

 

「....全然待ってないっすよ」

 

 

 



 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、なんとかサビーナに自分が精神の錯乱したクレイジーだという誤解を解くことが出来たワケですが、ランチタイムにサビーナがあのタッパーを取り出す度に狂気の咆哮を思い出すんです。

 

そしてひょっとするとサビーナも思い出してるんじゃないかと思うと、とっても気まずいんです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

磯島